骨粗しょう症
骨粗しょう症は、おそらくどなたでもご存じの病気ではないでしょうか。骨が対象となるので整形外科、または、代謝が関係するため内科の両方で取り扱われることが多い疾患といえます。
骨は、古い骨を吸収して新しい骨を形成する「リモデリング」という新陳代謝を、常に行っています。
吸収が過剰に亢進する、あるいは形成が極端に低下する場合に骨密度は低下します。また、吸収と形成のバランスが悪くなると、骨の基質(材料)が劣化し、骨の質も低下します。
このようにして、骨の強度が失われていき、本来折れにくい部位や、折れるはずのない力で骨折が起きてしまうのです。
骨の基質としては、コラーゲンなどのたんぱく質とともに、皆さんに馴染みが深いカルシウムがあります。
カルシウムは胃を切除した後(吸収するための補助因子が胃でつくられる)や、閉経後(女性ホルモンがカルシウムを吸収促進するためのビタミンD3を体内で作るため)に吸収が低下して、骨の石灰化が低下することで、強度の劣化を引き起こします。
日本における骨粗しょう症の有病率は1,000万人程度、年間の発病数は100万人程度と考えられ、男女比は1対3程度で圧倒的に女性の病気になっています。その理由は先ほど述べたように、女性ホルモンの年齢による体内変動が大きくかかわっています。
外来診察をしていても、骨粗しょう症への関心は圧倒的に女性のほうが高いように思います。
皆さんに『何を怖がっておられるのか』と伺うと、おおむね骨折してから寝たきりにすすむのがいやだということになるでしょうか。
実際、骨粗しょう症の生命予後(寿命)に及ぼす影響は、世界中で報告がなされています。
背骨の圧迫骨折の数が死亡率と関係があったり、大腿骨の骨密度の低下が死亡率を上昇させる、さらには大腿骨頸部骨折後1年で25%の方が亡くなるというショッキングなものもあります。
また、病的骨折(大腿骨頸部骨折や腰椎圧迫骨折など)を予防すると、寝たきりや施設入所の率が低下することもわかっています。
このように、骨粗しょう症は高齢者の生活の質を著しく低下させるので、治療も大切ですが、骨折を起こさないように予防していくことが大変重要になります。
骨粗しょう症の診断法について
以下の場合は、骨粗しょう症と判断できます。
①大した力が加わっていないのに簡単に骨が折れた
例えば「よいしょ」と座っただけで、腰骨がつぶれるということがあります。また、骨粗しょう症だけでなく、ほかの病気により骨が異常に弱ることもありますので、骨折の治療だけでなく原因も含めて医療機関でチェックするほうがよいと思います。
②専用の機械で測定した骨の量(骨塩)が低下している
症状が出る前に予防的治療が必要です。一般的に、骨塩の量が成人の80%以上であれば、正常と判断し治療には至りません。70%以下の場合は、骨折の危険性が高いため治療が推奨されます。70%から80%の間の方は、状況によって治療の可否を判断していきます。
骨塩定量検査は
が推奨年齢となります。予防にまさる治療法はありませんので、ぜひ検査を受けてください。
検査を受けるとなった場合に、問題になるのが測定法です。
簡単な検査として、超音波で足の骨の量を測定したり、手や前腕の骨の量をX線撮影して測定する方法がありますが、いずれも不安定で、正常を異常と判断して治療につながったり、また異常値を正常と判断して治療が遅れたりする危険性が否定できません。そのため、日本骨粗しょう症学会ではDEXA法という検査法を用いた腰椎、ないしは大腿骨の検査で判定することをすすめています。
DEXA法は検査として精度は高いのですが、機械が大掛かりなので、設置してある医療施設は少ないです。当院では、富士フィルム製で最新の検査機器を導入しております。測定時間も30秒と短いのでお手間は取らせません。
骨粗しょう症の治療
生活習慣の中での治療法
骨の量を増やすために、生活の中でできることを説明していきます。以下の2点に気を付けて生活してください。
①運動をすること
筋肉を動かすことで、筋肉が付着している骨に刺激をあたえ、骨が形成されることを促す、という生理的な仕組みをつかって、骨の形成に関与していく方法です。過剰な運動はかえって、関節や靭帯を損ねる場合があるので、あくまでも無理のない範囲で行ってください。骨を増やすための運動量に関する一般的な目安はありませんが、一日10分以上の軽い運動でも構わないと考えます。
②動物性たんぱく質をしっかりと摂取すること
タンパク質というと筋肉のイメージになるかもしれません。しかし、当たり前のことかもしれませんが、骨もその大部分はタンパク質で作られています。人も動物ですので 動物由来のたんぱく質をしっかり摂取すると 骨に使える動物性のアミノ酸をより効率よく摂取できることになります。高齢の方は、腎機能の低下を伴っている場合もあるため、タンパク摂取制限がある場合を考慮したほうがよいので、かかりつけの内科の先生に相談してください。
外来で患者さんからよく伺うのが『ジャコばかり食べている、牛乳をたくさん飲んだ』など、カルシウムを多量に摂取したお話ですが、これにはカルシウム過剰摂取の危険性が伴います。カルシウムの過剰摂取は、場合によっては血中のカルシウム濃度を上昇させ、危険な不整脈の原因になります。また、そこまで至らなくても過剰なカルシウムは腎臓を介して尿中に廃棄されるので、腎臓へ過剰な負担をかけることになります。偏った食事はせず、たんぱく質の豊富な食品をまんべんなく摂取するようにしてください。
薬剤による治療
生活習慣による骨粗しょう症への治療については、それほど大きな効果を得ることはできません。やはり主流となるのが薬物療法です。骨の代謝は、古くなった骨の吸収と新しい骨の形成によって行われており、正常な骨の場合はそのバランスが良いため骨の量が減少することはありません。骨粗しょう症になると、骨に原因がある場合、骨以外に原因があって2次的に骨粗しょう症になっている場合、どちらも
- ①骨の吸収が亢進している
- ②骨の形成が低下している
- ③骨の吸収が亢進し、かつ、骨の形成が低下している
という3つの状況に分類されます。
血液検査によって骨関連のマーカーを調べることで、現在の代謝状況を判断します。基本的に、吸収が亢進している場合は吸収を抑制する薬を、骨の形成が低下している場合は骨形成を促進する薬剤を使用します。しかし、骨塩の量が極端に少ない場合は、基本的に骨形成を促進する薬剤を選択しないと、いつまでたっても骨折の危険性を取り除くことができません。
また、腰椎の骨塩量を増やしたいのか、大腿骨の骨塩量を増やしたいのか、目的によっても選択する薬剤の方向性が変化してきます。
代謝状況と部位を考慮に入れて薬剤を選択しますが、さらに糖尿病や腎障害、ステロイドの多用による2次性の骨粗しょう症をきたしている場合は、現病の治療やコントロールをきっちりしないと治療が難しくなります。現病のコントロールを適切に行いながら、骨代謝に合わせて治療を選択します。
内服から注射まで、幅広い薬剤があります。自己注射が必要なものもありますので、生活習慣に合った選択をするのがよいと考えます。
薬剤を使用する場合は、腎臓の機能と血中カルシウム濃度のフォローが欠かせないものになってきますので、定期的な採血をお願いしています。
骨塩定量検査は4カ月に1回行うことが可能です。
しっかりと検査しながら、結果の吟味と副作用の予防に気を付ける必要があります。
各薬剤の特徴は、診察室でご説明いたします。
最後に
骨粗しょう症は、多くの女性が加齢とともに経験する病気です。また寿命の延長により男性が罹患する場合も増えてきました。骨粗しょう症に罹患すると、本当に驚くほど小さなちからで骨折してしまい、その後の生活の質が大いに脅かされてしまいます。
科学が進歩して、たくさんのよい薬が使える世の中になってきました。女性なら閉経後から、男性なら65歳を超えたら、ご自身の骨の質に気をくばるようにしてください。骨密度を測定して、骨粗しょう症になっていたら可能な限り治療を行い「いつまでもじぶんの足であるく」生活を目指していただきたいと願っています。